SHIBUYA PIXEL ART 2019(シブヤピクセルアート2019)

DeNA 楠薫太郎×シブヤピクセルアート実行委員 ひらいかずのり 対談

第二弾!
DeNA 楠薫太郎
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シブヤピクセルアート実行委員 ひらいかずのり
対談

デザインという「体験」

ひらい楠さんの過去のインタビュー記事を拝見して、これまでかなりいろんな業種を渡り歩いてきて、現在のゲームデザインに至っていると思いますが、一番最初にデザイナーになろうと思ったきっかけは何ですか?

大学の就職活動のタイミングですかね。美大とか専門ではなく普通の4年生大学だったので周囲の人からは「絵かけるの?」「急にデザイナーになるとか頭おかしいの?」などなど言われましたね(笑)。どうしてデザイナーになろうと思ったか?というと、シンプルにデザイナーという響きに憧れてたって感じで、本質的にやりたいことだからみたいな立派なものは何もなかったですね。

ひらいそうして初めはパッケージデザイン等のアナログから入っていって、徐々にウェブサイトデザインといったデジタルというジャンルに入っていったと思いますが、アナログからデジタルに移行してデザイナーとしての考え方は変わりましたか?

デザインという概念とか考え方みたいなところでは大きな差分はないとキャリアを振り返ってみて感じています。技術的な差分はプロとして確実にキャッチアップしていくとして、プロダクト / サービスの開発に携わるものとして、「何のために」「どのようにして」「どうなる」を体系的に考え抜くことが大切かと思います。

DeNA 楠薫太郎×シブヤピクセルアート実行委員 ひらいかずのり 対談

ひらいその頃に培った能力や経験は、いまのポジションでも活かされていますか?

そうですね。様々な環境でキャリアを積むことで俯瞰的に物事を捉える力が自然に身についたように思います。現在のポジションでは組織全体の戦略を考えたり、経営目線での意思決定が必要になってくるので広い視野で物事を捉えることはとても重要だと感じています。デザインの現場においても同じことが言えると思っていて、例えばUIの設計を考える際に、上位概念であるUXを俯瞰的に捉えながらUIに落としていくプロセスは戦略立案や意思決定に通ずるものがあると思います。

アートとUX(ユーザー体験)

ひらい具体的にゲームデザインにおけるUIってどういうことでしょうか?

そうですね。機能的な役割でいうと、そのゲーム固有の面白さに適切にアプローチするための道標といったところでしょうか。先にもお話しましたがUIの上位概念としてのUXを適切にプレイヤーに届けるための手段としてUIがあると考えています。ゲームというプロダクトは、構成要素が多く、情報の整理だけでも一苦労なのですが、このときに上位概念であるUXを意識できているかどうかでクオリティが格段に変わってくると思っています。

ひらい今でこそ、ゲーム業界でUIやUXの重要性が求められていますが、世間一般だとまだなかなか知られていない考え方です。普段僕たちは何気なくそれを使っていて、作る側を経験する機会も少ない。今ドットで絵を描いている人の中には、個人でゲームを作っている人も多いと思いますが、彼らはどうしたらそのようなスキルを身に着けることができると思いますか?

難しいですね…。まずUIとUXって何故かセットで語られることが多いのですが全く別のものですので分けてお話させてもらうと、まず、UXに関してはザックリいうと体験の定義と設計の話なのかなと。例えば、いま個人で作っているゲームがあるとして、そのゲームをプレイしたプレイヤーがどんな感情を抱くかをイメージしながら「おもしろさ」を作り上げていくことがUXにアプローチしていると言えると思います。そして、そこで定義したUXを適切にプレイヤーに体験してもらうためにUIを設計していくという一連の流れになるはずだと思います。と、言うのは易しなのですが、やはりUXの定義はイメージ力や過去の体験の転用力のような独特な能力が求められる領域なので、これをやればできるみたいなプロセスは存在しないのではないでしょうか。

ひらいデザイナーとしてのUIやUXの重要性は分かりましたが、アーティストとしてはどうでしょう?

デザインとアートの差分の話ってかなり難しいと思うのですが…個人的な考えではデザインとアートの差分は、それ自体が「独立」しているかどうかだと思っています。デザインは必ずプロダクトやサービスに付随して目的を達成するためや課題を解決するために存在していますが、アートはそれ自体が独立した存在として成立していると定義しています。そして、アーティストにとってのUXとは?という話になると、明確な目的や課題がない中で自らそれを創造しアウトプットとして表現する、ある種一般的なデザインのプロセスとは逆のアプローチをとっている点がアートとUXの特徴的なところなのではないでしょうか?実はゲームのUX設計も似ているところがあって、世にあるほとんどのプロダクトやサービスは明確な目的や解決したい課題があるのに対してゲーム自体はそれらを持たないので、アートとUXの関係性に似たプロセスをたどっているという捉え方もあると言えますね。

「戦略的撤退」という発想

ひらいアーティストって自分の作品を作ると視野が狭くなって、客観的に自分を見つめることができなくなることが多くあります。行き詰まったときとか苦しくなったときに、どうすればそのような状況を抜け出せるのでしょうか?

逃げちゃうんじゃないですかね(笑)過去の体験談で恐縮なのですが、デザイナーとして駆け出しの頃って、あたりまえですけどなかなかクライアントや上司、先輩に認めてもらえるデザインがあがらなくて徹夜したりして頑張ってたんですけど、いま振り返るとそれってどうなのかな…と。それはそれで良い経験にはなってると信じたいですがwそのうち経験を積んでいくと「諦めて一晩寝かせる」的なことをよくやるようになって。その日は思考も凝り固まっているし、過去の経験則に引っ張られて、これ以上時間をかけても箸にも棒にも引っかからないという状態があると思うんです。そういう時は自分がそういう状態になっていることを認めて、あっさり逃げるのが大事。今日はやらない、明日もこの作業はやらないって。「戦略的撤退」って言ったほうがいいかなと思いますが、逃げるとか、ここは一旦引くみたいな選択肢もときには大切だと思いますね。決して諦めてはいないので(笑)逃げるって行為は、日本人の美学に反しているようですけど、勝つために逃げる。いいアウトプットだすために、一回手を休めたり頭を切り替えることが時にはテクニックとして有用かと思います。また現状を周囲の人に相談したり、見てもらったり、時には仲間に手伝ってもらったりすることも良いですよね。

ひらいその中で、仲良し集団で終わってしまったり、互いに慰めあって終わってしまう場合もあると思うのですが、いい物を作る上での必要な条件はあったりしますか?

チームで何かをするときに一番大切なのは、共通の目的や目標を持つことだと思います。そうでないと仲良しこよしや慰め合うだけの関係になりがちな気がしますね。チームメンバー同士は共通の目的を持ちフェアにインプットしあえるのが理想だと考えます。あと、最近考えていることとしては、創作活動や制作を行う際に「発明」は必要ではないということです。「発明」それ自体や世の中に無いものを作ってやるという気概自体が不必要というわけではなく、固執しすぎると危険だという意味で。一見、斬新に見える作品やアイデアも紐解けば、先人が作ってきたエッセンスを取り入れつつ新しいものができていると思うので、ゼロイチで何かを作るという思考も良いですが、今あるものをきちんと理解して自分が今何ができるかを丁寧に考えながらアウトプットしていくことが、世の中的に新しい何かにつながるのではないでしょうか。

ひらいそれは、すごくリアリスティックで素敵な発想だと思います。任天堂の十字キーを作った横井軍平さんも同じようなことをおっしゃっていて、“枯れた技術の水平思考“という言い方をしていました。この業界では枯れているけど、出会って衝撃を受けたこと、心に残ったこと、手の感触として残っていることが、ある日突然、何かピースとしてはまりだす。そのためにも、これまでの積み重ねでできた自分や自分のスキルを客観的に理解しておく必要があると思います。

DeNA 楠薫太郎×シブヤピクセルアート実行委員 ひらいかずのり 対談

デザインもアートも、トレースっていう学習方法があると思うのですが。それって、その先につながる技術だと思うんです。評価されている先人のアウトプットを精緻に先の一本まで1ピクセルのズレなく完コピすることでスキル的な習熟はもちろんのことある種のロジックというかそういうものも感覚的に身につくのではないかと考えています。

ひらいその意見には僕も賛成で、一見無駄と思えることにも意味があって、何かを目指す中で成長の過程にあると思えます。

ヒットを生み出す難しさ

ひらいところで、最近は、ピクセルアーティストも一人でインディーズゲームを作っている人も多いのですが、スマホゲームの課金制が主流になってきている中で、なかなかドーンという「ヒット作」が生まれにくいと考えますが、こうした独立系の開発者がヒットを生み出すのは難しいのでしょうか?

どうなんですかね・・・。独立系の開発者のみならず業界全体の悩みだと思います。。。
皆さんの考える「ヒット」の定義は明確ではないですが、少なくとも独立系の開発者が創り出したゲームが世の中に広く認知される事自体が業界にとって大きなインパクトだと思いますし、多くの方にポジティブな印象を与えることは間違いないと思います。どのようにして「ヒット」をという問いに関しては正直な所、解はないですし、技術的な環境もある程度整いつつある中で独立系の開発者であることのメリットを導き出しながら本当に面白いと思えるゲームを自由度高く作るのが良いのではないでしょうか。

DeNA 楠薫太郎×シブヤピクセルアート実行委員 ひらいかずのり 対談

ひらいなかなか「ヒット作」を生み出すのは難しいですよね。ちなみに、DeNAさんの年間のゲームのリリース数はどれくらいなんですか?

リリース数は、具体的にはお伝えできませんが、昨今のスマホゲームの開発は時間もコストも膨大に費やすことになりますし、市場自体が競合ひしめくレッドーオーシャンになっているので事業としての難易度が非常に高くなっていると感じています。

ひらいそうですね、本当に難しいですよね。

だから、そういたった厳しい環境のなかでも弊社のゲーム開発では「プレイヤーの体験」を大切にしたいと考えています。かつてプレイヤーが自宅で時間を確保してプレイしていたゲームが、スマホやタブレット端末の台頭により、時間の隙間で遊ぶプレイスタイルに変化しました。このようなプレイスタイルの変化に対して、どんなプレイヤーにどんな遊びを提供したいかをしっかりと考えながらゲーム開発をすることが大切で、クリエイターとしてもこのことを強く意識しながら開発に携わることが重要だと思っています。

ユーザーが入り込む余白

ひらい僕は、キャラクター業界に長くいて。キャラクターって、完成させちゃいけないって常々言われていたんですね。それってユーザーに入り込む余地を与える事なんですが。これは、楠さんのいうゲームにおける「体験」とどこか似ているなぁと思いました。人が入り込む余白をつくって、自分事化できる。ある意味完成しきった作品は、つまらないものが多いと思うんです。この点において、限られた升目に描かれたピクセルアートは記号的で、観る人が想像する余白があると感じます。

今のゲームの表現がどんどんリッチになっているのは既知のこととは思いますが、一方で、弊社がスクエア・エニックスさまと協業させていただいたファイナルファンタジーレコードキーパーでは、昔FFをファミコンやスーパーファミコンでプレイしていた人達に『FF』の記憶の追体験をしていただきたくために、敵もキャラクターもドット絵で演出しながら、新鮮さも兼ね備えるためにエフェクトに関しては新しい仕様を採用するといったように、必ずしも技術表現の最先端を追うばかりではなく、やはり「体験」を主軸にした開発手法の選定をすることが大切です。

ひらいそうだったんですね。僕は、ゲームに限らず、ビジュアルってそんなに優先順位が高くなくて、何事においても、音が一番大事なんですよね。BGMだったり、SEだったり、リズムだったり。これらがあって初めて次に絵にいけるっていう感覚なんです。僕の時代のファミコンとかって、全部リズムゲームだと思っていました。シューティングゲームも、スーパーマリオも。ある時、何でこんなにも楽しんだろって考えたんですが、やっぱり体の中に流れる音楽が気持ちよかったんです。だから、画面がなくても頭の中で音楽が流れていて、記憶にも残っている。マリオブラザーズも「テレッテッテレッテ」というリズムがいつもみんなの頭の中に残っていて、どこか心地よい。僕がドット絵が好きな理由は、ドット絵のカクカクカクって動きが8ビットの音やリズムにピッタリ合っていたからなんですよね。今の高精細なグラフィックなら滑らかな動きもできるのですが、ここまで気持ちよくない。

DeNA 楠薫太郎×シブヤピクセルアート実行委員 ひらいかずのり 対談

確かに。面白いですね!

ひらい今はCGになってディテールもしっかり描き込まれている。キャラクターの性格も分かりやすくなっているけど、気持ち良さにはつながっていない気がするんです。だから、ゲームに限らず、僕の中ではコピーとか言葉も全部リズムによって、人の中にスーッと入るという感覚があるんです。

シブヤピクセルアートを応援する理由

ひらい今回、DeNAさんがシブヤピクセルアートを応援すると決めた理由を教えてください。

DeNAは「Delight and Impact the World」というミッションを掲げているのですが、これの実現のためには様々なプロダクトやサービスの根幹にクリエイターが深く関わることが非常に重要だと常日頃から考えていて、シブヤピクセルアートの、まだ世に出ていない才能ある人達を本気でサポートしようとする姿勢や彼らの力を見出す機会を創出している点に非常に共感したことが大きいです。
今回のピクセルアートコンテストはすごく分かりやすいのですが、コンテストに参加して絶対に賞金獲るぞ!っていう人もいるし、とにかく誰かに自分の作品を観てほしいと思っている人もいます。こういう取り組みをきっかけにして、自信をつけて、次のチャンスを掴みとってほしいと思うんです。そんな中で、巡り巡って、もしかしてDeNAの事業に貢献してくれる人に出会えるかもしれませんし。このようなクリエイター支援の取り組みは私共のような企業も積極的に行っていくべきだと考えています。新しいクリエイターがどんどん世の中に出てきて活躍することは社会においても非常に意味のあることだと思うので積極的に関わっていきたい思っています。

ひらい今回シブヤピクセルアートを応援してくださって本当にありがとうございます。それでは、最後に、ピクセルアートをやっている人たちに、メッセージをお願いいたします。

自分の作品を世の中に出していくこと、そして多くの人に見てもらう体験は、とても大切なことだと思います。また、コンテストで賞を獲れなくとも、こういうコンテストに参加することをきっかけに、新しい出会いがあったり、新しい感覚が芽生えることがあると思います。なので、結果は結果として受け止めるとして、前向きに自分の作品を発信していってほしいと思っています。何か答えを求めるというよりは、打席に立つことで、次のきっかけを掴んでほしいと思います。

ひらいありがとうございます。最後に楠さんのお話をお聞きして思ったのですが、「体験」っていうものは、「実験の積み重ね」みたいなところがあるのかなぁと。特にアーティストにおいては、何かを作ることや表現することが実験だし、誰かに見てもらうのも実験なんですよね。そういう実験を繰り返しいくことで、自分のオリジナリティにたどり着ける。会社においても、社会においても、こういう実験を許容する部分がもっと必要なんじゃないかなと思って、僕たちのコンテストやイベントも、こういう実験の場につながればと思ってやっています。

それは、すごく嬉しいことですね。世の中のクリエイターに打席を作る。とても、素敵だなって思いました。

DeNA 楠薫太郎×シブヤピクセルアート実行委員 ひらいかずのり 対談

楠薫太郎

紙媒体のデザイナーからキャリアをスタート。ディレクター/デザイナーとして、Webやアパレル、音楽、映像コンテンツなどさまざまなプロジェクトに参画し、フリーランスを経て、2012年、DeNA入社。複数のIP系ゲームのクリエイティブディレクションの運営や立ち上げを担当し、その後、DeNA Games Tokyoの創業に参画。デザイン部 部長を経て、2018年1月、取締役に就任(現任)。現在は、DeNAゲーム・エンターテインメント事業本部ゲーム事業部Develop統括部デザイン部 副部長も兼任。

ひらいかずのり

1974年、新潟県生まれ。1996年より日本IBM、アップルコンピューター(QTシリーズ)、NHKエデュケーショナルなどの公式サイトなどを製作し、 1997年NTTLS公式サイトでは、Adobe Flashを活用したアニメーションを製作。2000年頃よりゲーム会社でプログラマー兼グラフィックデザイナーとして活動後、キャラクターデザイン会社にて、企業系キャラクターやアニメーションキャラクターなどを多数制作。2010年以降は企画制作ディレクターとして、ゲーム、アニメ、イベントなど多岐に渡り活動。現在は、U6 studioに所属し、筋骨格人間型3DCG生成技術「デジタルヒューマン」ミドルウェアの研究開発に携わる傍ら、シブヤピクセルアート実行委員会の中核メンバーとして活動する。