Article&Interview
2018/04/03
第一弾! スクウェア・エニックス 渋谷員子×ピクセルアーティスト Zennyan ドット絵対談 第三回
ブラウン管のマジック
Zennyan
FF6のキャラクターの頭の隙間の表現とか面白いですよね。
渋谷
あ、つむじ?
Zennyan
つむじのところです、ドット打ってるときれいに輪郭線を繋げたくなるんですけど、これがない方がつむじを表現できるってことで、取っちゃうじゃないですか。
渋谷
そのかわり濃い茶色を置いるんじゃないかな、ひょっとしたら。
Zennyan
ただでさえ制限があるのに、輪郭線は繋がっていない方がいいと判断して省いているのが、ものすごく高度だなって感激したんですよ。
渋谷
高度!?
Zennyan
機械の制約に任せないで、自分で制約を作って、ここは取ると判断していくって最高だなと。
渋谷
最高? ありがとう(笑)。
Zennyan
それはもう見ていてすごく興奮します!
渋谷
つむじを褒められたのは初めて。
Zennyan
今のドッターさんってドット絵の描き方っていうのを参考にして、それですごい綺麗な線が描ける人が多い気がするんです。
渋谷
ドットは線じゃないんですよね。
Zennyan
そうですよね、それもありますね。だから綺麗な線を描くことが目的になってしまう人もいて。でも渋谷さんの場合は綺麗な線を描くことが目的ではなく、そのキャラを表現するのを目的に描いているような。
渋谷
仕事ですからね。当時ブラウン管(※9)に出力しながら描いていましたし。作業用の画面とブラウン管がケーブルで繋がっていて。打っているものが瞬時に反映されるっていうファミコン用の素晴らしいツールがあって。ドットを打ちながらブラウン管しか見ていませんでした。ユーザーが見るのはブラウン管のテレビに出ているキャラクターですから。
Zennyan
この白い点は?
渋谷
ほっぺ。
Zennyan
ほっぺがちょっとあからんでいる感じというか?
渋谷
あからむんじゃなくて、ブラウン管のマジックで、白を入れると滲んでホワッて膨張するんですよ。ほっぺが膨らんで見えるの。
Zennyan
そういう点なんですか。これがすごくいいんですよね。
渋谷
でも印刷や、液晶画面で見るとなぜここに白い点が…になっちゃうんですけど。
Zennyan
これは、最初意味がわからなくて、涙かなって一瞬思ってしまったんですけど。
渋谷
あー難しいですね。ブラウン管を知らない世代にどう説明していいのか…。
Zennyan
でも、わかりました!
渋谷
ブラウン管に映っているのが私のドットの全てだったので、さっきのつむじ問題にしてもほっぺ問題にしても意識はしてないんですよ。ユーザーが元のデータを見ることはないので不思議なところにドットが打ってあっても別にいいんですよ。だから今の時代にここを突っ込まれるとちょっと恥ずかしいですね。
Zennyan
でもその変換ってすごく面白いなって思うんですよね。
渋谷
今の時代にブラウン管で出力しながら描いてみたらすごくおもしろい作品ができるかもしれませんよ。
想定外の色味や形になりますから。きっと新しい表現の発見がありますよ
Zennyan
今は大体コントロールできてしまうので、欲しい色とか。
リメイク版FFのドット絵
渋谷
今でも制限して描いてますよ。容量を考えなくてよいからと言って何色も使ってたら自分がコントロールできないです。16〜20色くらいがこのサイズであればちょうどいい。画集の後半の方に掲載してあるリファインしたFF7以降の絵とかは多くて20色と少しかな。
Zennyan
このリメイクした絵で気を使ったこところとかはありますか?
渋谷
とにかく、キャラに似せること。本物に似せること。頭の形、ヘアスタイルを似せること。
デフォルメで2~3頭身だと見た目ほとんど頭ですからすごく時間をかけて研究してゲーム内CGキャラのスクリーンショットをたくさん見ます。
FF DOT.-The Pixel Art of FINAL FANTASY-
© 2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
Zennyan
CGのキャラに似せているんですね。原画ではなく、CGに。
渋谷
CGのスクリーンショットの方が顔の角度が豊富なので参考になります。最終的には原画イラストもあわせて想像を膨らませて確認作業をします。自分でモデリングできるくらいに。
ユウナ(※10)はとっても難しかったですよ。ヘアスタイルが普通すぎて。唯一の特徴である顔の片側の一束が微妙に外ハネしてるのを再現するのにすごく時間をかけました。
Zennyan
特徴がある方がいいんですね。
ドット絵のグラデーション
Zennyanあと、リメイク後の色の置き方はオリジナルと違いがあると思っていて。すごくグラデーションが柔らかくなっているというか。
FF DOT.-The Pixel Art of FINAL FANTASY-
© 2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
渋谷
それもやっぱりブラウン管と液晶(印刷)の違いになりますね。ゲームではコントラストがはっきりしていた方がわかりやすいし背景に埋もれません。あとは色数の違い。
Zennyan
なるほど。
渋谷
リファイン版は印刷媒体という事もありますが、色の滲みがないのでグラデーションの幅がないときれいに見えないんです。あと私は昔、透明水彩でイラストを描く事が多かったのできれい目のグラデーションが好みなんです。私はきれいな色彩を感じる範囲でグラデーションを4〜5段階ぐらい作って、締め色を1色あればという感じ。グラデーションはすごく個性が出るところでもあって、暗い方を黒にもっていく人、青みがかっていく人、グレーでくすんでいく人などさまざまです。
Zennyan
今印刷物で見ると、オリジナル版ってかなりコントラストが強い印象がありますよね。でもこのハイコントラストが、僕はいいなっていう感じがしていて。
近目だととても耐えられないんですけど、遠目だと意外となじんで見えるっていう。それもまたデッサンに似たような現象というか。
渋谷
そうだとしても昔のドットはゲームの中の1要素とし見てほしいです。ドット単体で切り取られると不自然な気がしますね。
Zennyan
マッシュのこの、おでこのツヤの感じ。
渋谷
それもブラウン管で見るとおでこが出ているように見えるんですよ。
Zennyan
あらためて見比べてみたいですね。
渋谷
見てほしいですね~ミニスーパーファミコンのアナログテレビモード(※11)で見られます(笑)。
FF6はFF5よりも胴体部分を1ドット分長くしたので、頭のサイズがFF5よりも小さくなっていて、そのおかげで頭頂部が真っ平らな人が多いんですよ。真っ平らなんだけど、ブラウン管だから膨張して見えて丸い感じに見えるの。今、液晶で同じように描いたらかっこ悪い。もう1ドットあれば頭丸く描けたんですけどね。
Zennyan
じゃあ当時はもうちょっと丸くしたいって思いもあったんですね。
渋谷
もちろん!もうあと1ドットあれば、1色あれば、とずーっと願ってました。でもサイズの縛りはその後も続いたのでかなわぬ願いでしたが(笑)。
Zennyan
今もゲームはやられないですよね?
渋谷
やらないです。
Zennyan
海外のインディーゲームのタイトルとかもあまりご存じないですか?
渋谷
見ないですね。
Zennyan
結構ドット絵は進化していると僕は思っていて。
渋谷
ピクセルアートコンテストを見ているとそれはとっても感じています。自由な解釈で自由な表現、うらやましい面もありますね。
※9)ブラウン管・・・ビデオモニター、テレビ受像機、コンピューターなどのディスプレイやオシロスコープなどの用途があり、かつてはテレビの代名詞として広く一般家庭でも用いられた。2000年頃からテレビやパソコンのモニターは液晶やプラズマへ徐々に置き換えられ、2010年には国内メーカーによる生産が終了した。YouTubeの”Tube”は、ブラウン管の真空管に由来する。
※10)ユウナ・・・『ファイナルファンタジーX』および『ファイナルファンタジーX-2』の登場人物。
※11)アナログテレビモード・・・「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」や「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミリーコンピュータ」に搭載されているブラウン管テレビのような見え方を再現するモード。「アナログ」「4:3」「ピクセルパーフェクト」という3つのモードがあり、「ピクセルパーフェクト」は1ピクセルが長方形だったブラウン管の比率を補正し、1ピクセルを正方形にして表示する調整が施されれています。
FF DOT. -The Pixel Art of FINAL FANTASY- © 2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
FINAL FANTASY V © 1992 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved
FINAL FANTASY VI © 1994 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved
FINAL FANTASY X © 2001 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA
渋谷員子
CGデザイナー/アートディレクター。 旧スクウェア時代から現在のスクウェア・エニックスに至るまで「ファイナルファンタジー」や「ロマンシングサ・ガ」シリーズなどキャラクタードット絵やデザインを手掛けてきたグラフィックデザイナー。「FFⅠ」のオープニングシーンなど、今なおプレイヤーの記憶に印象深く刻まれている多数のグラフィックを担当し、「ドットの匠」としてファンを魅了する。近年はアートディレクターとしてモバイル用タイトルのデザイン監修や、音楽CD「FINAL FANTASY TRIBUTE~THANKS~」のジャケットデザイン、ファイナルファンタジーの吹奏楽コンサート「BRA★BRA FINAL FANTASY BRASS de BRAVO」のメインビジュアルドット絵など、さまざまなシーンで活躍している。
Zennyan
イラストレーター/ピクセルアーティスト/SPA2018最優秀者 1984年生まれ。千葉県出身。東京藝術大学美術研究科工芸専攻修了。日本の伝統工芸としての彫金を学んだ後、コンピューターゲームの制作過程や美観に魅せられ、ピクセルアート制作を開始。ゲームのキャラクターや背景、UI、アニメーション等の制作を行う傍ら、滑らかなデジタル表現の中に、アナログ絵画が持つ身体性や偶発性を取り込み、「ノイズ」や「グリッジ」などピクセルアートの新たな可能性を模索している。