Article&Interview
2022/07/18
世界初“スイカ付きピクセルアートNFT”への挑戦。服部グラフィクスとthe PIXELプロデューサー対談(後編)
“スイカ付きピクセルアートNFT”で町おこしをするという異色の企画。
今回作品を手掛けた服部グラフィクス氏(写真右)と、北海道共和町出身のスイカ農家でthePIXELプロデューサーの小野祥吾氏(写真左)による対談の後編では、服部氏が低解像度GIF作家という肩書きにこだわる理由と、小野氏が考える田舎の可能性について迫る。
築100年古民家を舞台に2人が語らった内容とは。
服部流アニメーションの極意
小野
服部さんはアニメーションのせわしなさや、見ていて飽きさせない、ずっと見ていられる作風が特徴ですが、作家としての極意や、技術面の部分でのポリシーは。
服部
一つは”休ませない”ということですかね。画面の中のキャラクターを休ませない、すべての時間の中ですべてを動かせること。もう一つはループ。いかにシームレスループできれいにつなげるか、どこで切り替わったというのをあんまり気づかせないようにしている。
1ピクセルも休ませない、すべての画素が全部動くようにというのは、今回みたいにシンボリックな作品の厚みを考えたときに意識してること。見た人からするとやかましいなと思うでしょうね。
小野
今回の作品のように、ある種電子ドラッグ的な作品を作っていて、頭がおかしくなったりはしないんですか。
服部
そうならないようにはしてますね。色にしても本当に目がおかしくなるような感じにはしてないし、「刺激を受けてるような気になる」感じに留めるようにはしてる。
アニメーションをできる限りスムーズにすることで、チカチカして見えないようにしたりだとか。もともとゲームの世界でやってきたから自然とそういう作法は身についたかな。
いつの間にか映像作家みたいになってるけど。
ドット絵は「一番幼稚な遊び」
小野
恒例になってきた質問なんですけど、服部さんにとってピクセルの定義とは何でしょう。これは皆さんに聞いてるんですけど、作家ごとにまったく違う答えが返ってくるんですよ。
BAN8KUさん(8月公開予定)の定義は「一番信頼できる画材」、重田佑介さんだと「光学的に調整された四角い光」とか。
服部
みんなかっこいいこと言うなあ。一応、僕の中の定義があって、「現代で一番原初的な画材」。
本質的にはみんなと同じことを言ってるんだけど、現代社会でディスプレイって紙であり、筆であり、絵具のようなもの。ディスプレイに絵を描くとき、最も根源的な画材がピクセルで、それはユーザーインターフェースも写真もイラストレーションもそう。取り込んで画面に出した一番小さい単位がピクセルで、それが僕らが扱ってるドット絵。
ドット絵って、いわば一番幼稚な遊びなんだよね。
小野
低解像度にこだわる理由はあるんですか。
服部
単純にドット絵に手馴れていて早かったのと、なおかつ作品が作品たり得るものを表現するのに一番手っ取り早かったから。ドット絵に下書きってないんですよ。とにかく早くて表現しやすい、脳からダイレクトに表現できることが理由かな。
一番低い解像度でも、それで伝わってればいいんじゃない? って。どこまで削ぎ落せるか、どこまでなら情報伝達として成立するのかを突き詰めたいというのもある。
僕は高解像度のゲームをやるのも好きですけど、今はどうでもいいものまで高解像度化してないかなと。僕らみたいな領域では、低解像度のものがあってもいいなと。
田舎と都会の間にある、「人材の流動性」という決定的な差
小野
今回の企画に際して、田舎の可能性についても掘り下げた話がしたいと思っています。
服部
田舎の可能性は僕には分からないなあ。接点がないから。
ただ、今回の企画をやってみて、僕らみたいな土を踏まない作家でも社会の中で生きてる以上は一次産業とも共生し得るのかなと。
小野
「土を踏まない」を繰り返してますけど、土に対するコンプレックスでもあるんですか?(笑)
服部
子どもの頃は踏んでたけど、東京に来てからは踏まなくなったよね。別に踏まなくてもいいんだけど、地元(横須賀)から東京に出てきて決定的に変わったところが土がないことだった。
そうは言っても、産業のすべては土から始まるんですよ。ただ、僕らデジタル屋はだいぶそこから離れちゃったなあと。
もう少しデジタルコンテンツだけで完結せずに、社会や地域と関われることがあるんじゃないかな。特に僕みたいな作品は一番遠いところにあると思ってるから。
小野
僕は今、田舎と都会を行き来する生活をしてて、1か月のうち、2週間は東京でITの仕事をして、2週間は北海道の実家で農作業をしてるんです。
そういう両極端な世界を行き来して、それぞれの場所の人たちと話す中で気づいたんですけど、田舎って別に優秀な人が少ないわけじゃない。ただお互いの優秀さを認識しないまま生きてる人が多いのかなって。
服部
それは東京でもそうなんじゃない?
小野
東京は人材の流動性が高くて、みんな何かしら発信をしてるじゃないですか。田舎は自分のごく近くだけ見渡して「面白いやつがいないな」と思って、でもすぐ近くの部署とか地区にも面白いやつはいて、そいつも面白いやつがいないなって思ってたり、うまくマッチングしてない。
だから僕は田舎を引っかき回したいんです。「あそこで何か面白そうなことやってるな」という、ざわつきが一番大事なのかなって。
服部
意外とそうなんですね。田舎ってみんながみんな知り合い同士っていうイメージがあったけど。
小野
“みんな知り合い同士”っていうのは確かなんですけど、みんながそれぞれの能力やアイデアを把握してるかというと、それは別問題なんですよね。
そこは北海道という土地柄もあるかもしれませんね。広いというのもあるし、世代的にもあまり他者に干渉し合わない。
それと比べると東京は交流が多いし、特にクリエイターは優秀じゃなきゃ退場させられる世界じゃないですか。何か作り続けないといけないし、作り続けてる限り人と人との交流は起きる。
そう考えると、田舎はどうしても流動性の低さを感じるんですよね。
服部
僕はずっとネットの世界でやってきて、そこでは人口密度や土地の差はないと思ってきた。地場産業なんかネットの方が活発に見えるくらいで。でもリアルの肌感覚ではそうでもないってことなんですね。
小野
人材、人流の停滞を感じますね。でも面白い人間の絶対数は変わらないと思う。人口が多い分、東京の方が面白い人も多いけど、そうでない人もいっぱいいる。
服部
そういう場所での活動の起爆剤に、今まで選ばれづらかった服部グラフィクスのような人材が関われるのはうれしいですね。あんまり賑わってないところを賑やかにしたいというのはあるんですよ。
小野
それはさっきのアニメーションの技術論の話にも共通してますね!「すべてのキャラクターを動かす」という。
服部
そうそう、みんなが欲しがってない、みんなが賑わってないところでやりたいというのがあるんですよ(笑)。
小野
思わぬところで服部さんのアニメーションと町おこしの共通点が見出されましたね。
服部さん、今日はありがとうございました。
今回、服部グラフィクスさんが手がけた全41作品はNFTプラットフォームthePIXELにて7月22日 20:00 より販売開始予定。
NFTを購入するとスイカが手に入る、世界初の『スイカ付きピクセルアートNFT』となっている。
『Raiden’22』
作家:服部グラフィクス
低解像度GIF作家 多摩美術大学デザイン科卒業後ゲーム会社勤務を経て独立。グラフィッカー兼キャラクターデザイナーとしてコンピューターゲーム開発に参加する傍らイラストレーター、ピクセルアーティスト、GIF作家として活動。
農家: 小野祥吾
the PIXEL プロデューサー 地元の北海道共和町で農家をしながら、東京でシブヤピクセルアートの実行委員会をはじめとする活動を行う。2022年よりクリエイティブ農業集団『フリーノーソン』を立ち上げ、「農業とクリエイティブにより田舎をもっと面白くする」活動も開始。
執筆者:佐藤佑輔
取材記者、WEBライター 東京都出身。 東京スポーツ新聞社を経て、総合ニュースサイト「ENCOUNT」編集部所属。スポーツ紙時代は主にアマ・プロ野球取材を担当。現在は時事問題や社会問題を中心に広く取材を行う。
取材協力:未来定番研究所