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Article&Interview

2018/04/04

第一弾! スクウェア・エニックス 渋谷員子×ピクセルアーティスト Zennyan ドット絵対談 第四回

前回のSHIBUYA PIXEL ARTコンテストをどう思うか

Zennyan

渋谷さん自体はスタイルとか過去の形式にこだわらないって感じだと思うんですけど、今の若い人たちの中には結構形式美みたいなのを大事にする人も多いと思うんです。前回のSHIBUYA PIXEL ARTコンテストのLINEスタンプ部門では、ピクセルのグリッドを無視して矩形を回転させるのは形式から外れてしまっていて、違うんじゃないかと物議も醸していて。若い人たちがスタイルにこだわることをどのようにお考えになりますか?

渋谷

みんないろんな表現があっていいかなって思います。それぞれのこだわりの中でいい作品ができれば。私はゲームという容量制限の激しい中でしかドット絵を描いてこなかったから、貧乏性で(笑)。あくまでもゲームの中の記号というスタイルにこだわっています。
Zennyanさんみたいなアート的な表現は思いもつきませんでしたよ。コンテストに応募された作品はどれもとても新鮮です。

Zennyan

新鮮だった?

渋谷

新鮮、新鮮。それがいいか悪いかはSHIBUYA PIXEL ARTさんの、主催者側のルールにより判断することなので。

Zennyan

形式美みたいなのも存在していてもいい、と。

渋谷

制限の中で美を求めたい人もいるでしょうし、それはそれでいいと思います。
私もそれに近い感覚ですが、自分の作品はアートじゃなくてゲームの中のデータなのでドットに対する意識が少し違うのかもしれません。

Zennyan

目的があって、その目的に合わせてあるものですよね。

渋谷

私の仕事ですから。

渋谷さんにとってのドット絵

Zennyan

今後、渋谷さんはドット絵というのを自分の好きな表現としてやることはないんですか?

渋谷

ないです。

Zennyan

あ、言い切りますか?

渋谷

ない。もうお仕事だけで十分。新卒で入社してから毎日ドットのことしか考えていない日々だから。ドットを描かなかった15、16年とかもあるんですけど、その間もドット絵描こうとは一度も思わなかったし。
ドットを離れていた間は別の仕事、UI(※12)とか、フォント、エフェクトとかも多かったです。いわゆるデザイン寄りの仕事をしていて、もともと好きな分野なのでドットと出会わなかったら別の業界でやっていたかもしれない仕事でした。楽しく成果も出していたし正直言って、もうドットを描く仕事はこの先無いだろうと思っていました。なので携帯電話のコンテンツでドット絵のゲームを作りたいから、描いてくれないかと相談されたときにはすごく驚きました。時代が戻ったの???ていう。
そして長いブランクから久しぶりにドット打ってみたら、なんだか前より上手になっていました(笑)。

Zennyan

間を置いたことで。

渋谷

間を置いたことと、その間モデリングしたりモーション付けたり、UIにエフェクトにといろいろ経験した事がよかったみたいで。この時初めて自分の頭の中で3Dとドットがはっきり繋がった感じがしました。頭では3Dモデリングのキャラクターが動いていてそれを右手で2Dで出力しているんです。
さっきも少しお話しましたが、過去にやっていきたことが繋がるのは本当に後ですよね。アニメや少女漫画が好きだった事、好きな漫画家の模写をしていたこと、デッサン、アニメーションを勉強してきたこととか、ひとつひとつがどう繋がっていくかなんてわからなくて。ぼんやりと絵を描く仕事ができたらいいなと思ってた十代でした。
仕事としてお金をもらうならちゃんと会社に行ったほうがいいから、アニメの会社に行ってみた。でもアニメーターとしてはちょっと無理かもしれないって思っているときに、「ゲーム会社から求人が来ているから行ってみたら?」と言われ、ゲームってなんだろう?絵を描く仕事ができるならとりあえず面接行ってみようかなって。

Zennyan

そのリアリストな一面があるのは僕からすると少し羨ましいと思います。
男性はちょっと夢見がちな部分があって、現実が見れなかったりするので(笑)。

デザインで誰かを喜ばせる

渋谷

絵を描いて稼がなければと。今思えば絵の仕事一択で他の就職先はまったく考えていませんでした。
絵を描いてお金をもらうにはどうしたらいいんだろうと。今の時代はインターネットがあり情報もたくさんあるからデザイナーの仕事も間口が広いですよね。
昔は本当に情報がなくて、分厚い就職情報誌を見てもどこにもデザイナーの募集なんてないんですよ。美大に行って商業デザインの勉強をしたら仕事はあったかもしれないですけれど。私には大学から就職の道が見えなかったのでどうしようかなあと。
ひょっとしたら服飾に行っていたかもしれない。DCブランド全盛期の人なので、ファッションも好きだからそっちの方に行っていた可能性もある。ゲームじゃなくて、ファッション業界に。そしたらまた道は色々あって、スタイリストとか洋服のデザイン関係とかの可能性もありますよね。デザインというくくりだったら、多分どっちに行っていても、私はある程度成功していたと思います。今の自分を分析するときっと出来てるはず。

Zennyan

どんなことをやってもできただろうっていうその自信はどこからくるんですか?

渋谷

自信、どこからくるのかな……?

Zennyan

ゲームもやったことないのにドット絵もなんとかなるだろうみたいな。

渋谷

私、子供の頃から、自分は絵が上手いと思っていたんですよ。

Zennyan

なかなか思えない人も多いと思います。

渋谷

絵が描けると友達にその漫画の絵を真似て描いてあげたりしますよね?

Zennyan

します。

渋谷

学校のお昼休みに何人かに囲まれて、絵描いてって言われて、いいよーって描くじゃないですか。そして描いた絵を上手だね!と喜んでもらえる。図工の時間に描いた絵を褒められると嬉しいし何か誇らしい気持ちになってきて。中学生になると誰に見せるためでもなく、アニメでも漫画でもひたすら模写をして一人悦に浸っていました(笑)。美術部では先生に毎日デッサンを教えてもらって日々技術が磨かれていき、続けていくうちに私は絵が上手だという客観的な視点にもなってくる。
あ、でも描いた絵をまわりの人が喜んでくれるというのは、私のドット絵を世界中の人が気に入ってくれて喜んでくれてうれしい。につながってますね。ゲームでもファッションでも私のデザインで誰かに喜んでほしい。
私のベースにあるのはこれかも。今気づきました。

作り続けるために大切なこと

渋谷

あと大事なのは、人と比べない事です。
今の時代、インターネットで絵を見せ合う文化があるから、どうしても人と比べますよね。
世の中にはこんなに圧倒的画力や表現力のある人がいるんだ。それに比べてなんで自分には描けないんだろう。って。刺激になると同時にちょっとへこむ。

Zennyan

その気持ちわかります。

渋谷

自分が描きたい、表現したいものを人と比べる必要はないですよ。私がゲームをしなくて、ゲーム雑誌も読まないのも、人は人、自分は自分って考えてるから。世に出ているものに興味がないんですよ。誰かが描いちゃったものに興味がないとかっていうか。
想像のインスピレーションは現実の、今自分が目にしている世界にあるんです。

Zennyan

それが、長くやり続ける秘訣なのかもしれないですね。
僕も渋谷さんのようにたくましく、クリエイティブ続けたいので参考にしたいと。

渋谷

仕事だからですよ。会社員ですから。
出されるお題に向き合って予想以上の成果を出し続ける。これが大事かも。
私、メリハリ、オンオフを大事にしたいのでフリーになれない人です(笑)。家で仕事はできないかな。
そして、これも天野さんの受け売りなんですけど、組織人でいることのメリットは、やりたくない仕事もやらされること。やりたくない仕事をやるってことは自分の絵の幅が広がる。と。

Zennyan

メリットなんですね!?

渋谷

私がこんなに長く会社員として仕事をしているのも、たくさんの挑戦とチャンスをもらっているからなんですね。経験がなくても苦手でも挑戦できる。そして成果も出せば社内外から一緒に仕事しましょうと声をかけてもらえるようになります。
もちろん会社員でもフリーランスでもチャンスは自分でつかまないといけません。チャンスは逃さず、いろいろな経験を積んでもっと大きな仕事をつかめるようになりましょうよ。そして30年たって後ろを振り返ってみたら、経験した事すべてが繋がって線になっていた!と気づくんです。

Zennyan

渋谷さんが「ドット絵は仕事です」って話されてて、最初ちょっとドライな印象があったんですけど、今はすごくかっこいい言葉に感じられるようになりました。

渋谷

なった?(笑)ありがとう!

 

※12)UI・・・User Interfaceの略。コンピューターとユーザー間で情報をやりとりをするための画面のこと。

  • 渋谷員子

    CGデザイナー/アートディレクター。 旧スクウェア時代から現在のスクウェア・エニックスに至るまで「ファイナルファンタジー」や「ロマンシングサ・ガ」シリーズなどキャラクタードット絵やデザインを手掛けてきたグラフィックデザイナー。「FFⅠ」のオープニングシーンなど、今なおプレイヤーの記憶に印象深く刻まれている多数のグラフィックを担当し、「ドットの匠」としてファンを魅了する。近年はアートディレクターとしてモバイル用タイトルのデザイン監修や、音楽CD「FINAL FANTASY TRIBUTE~THANKS~」のジャケットデザイン、ファイナルファンタジーの吹奏楽コンサート「BRA★BRA FINAL FANTASY BRASS de BRAVO」のメインビジュアルドット絵など、さまざまなシーンで活躍している。

  • Zennyan

    イラストレーター/ピクセルアーティスト/SPA2018最優秀者 1984年生まれ。千葉県出身。東京藝術大学美術研究科工芸専攻修了。日本の伝統工芸としての彫金を学んだ後、コンピューターゲームの制作過程や美観に魅せられ、ピクセルアート制作を開始。ゲームのキャラクターや背景、UI、アニメーション等の制作を行う傍ら、滑らかなデジタル表現の中に、アナログ絵画が持つ身体性や偶発性を取り込み、「ノイズ」や「グリッジ」などピクセルアートの新たな可能性を模索している。

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